ワクチンの話
あなたの大切な赤ちゃんや子どもがうける予防接種です。ワクチンのこと、もっともっとよく知ってください。
少々長いですが、時間のある時にでも見ていただけるとうれしいです。これを見て、ワクチンに対する考えや見方が少しでも良い方に変わっていただけたら本当にうれしく思います。
私は小児科医を続けていくかぎり、「すべての子どもが平等に安心して予防接種をうけることができる社会をめざして」を実現できるよう頑張っていきます。
なぜ予防接種が必要なのでしょう
細菌やウイルスが人体に侵入しておこる病気を感染症といい、日本でも多くの人が感染症で命を落としています。この感染症から体を守る方法として予防接種があります。予防接種に使用する薬品をワクチンとよびます。
「ワクチンデビューは2か月から」はなぜ?
最近、「予防接種は生後2か月から開始しましょう」と言われます。それはなぜなのでしょう。
赤ちゃんは麻しん(はしか)などと同じように、肺炎球菌、ヒブ(インフルエンザ菌)、百日咳に対する免疫(抗体)もお母さんから胎盤を通してもらっています。 しかしこれらの免疫は生後2か月を過ぎる頃になると病気になるのを防ぐには不十分となります。そこで生後2か月を過ぎたら、できるだけ早く予防接種でこれらの細菌に対する免疫をつくってあげる必要があるのです。
予防接種は車のシートベルトのようなものです。もしものときに命を落としたり、後遺症を残したりしないための手段です。病気になってから「予防接種をしておけばよかった」と思わないですむように、早めにすませておきましょう。
副反応(副作用)をただ心配していないで、どんどん小児科医にきいてください。
よくわからないままにしないでください。疑問や不安を残さないでください。
あなたの大切な赤ちゃんや子どもがうける予防接種です。よく知ってください。
ワクチンは子どもの命を守る大切な味方です。
生ワクチンと不活化ワクチン
予防接種に使用するワクチンには生ワクチンと不活化ワクチンがあります。
生ワクチンとは生きている細菌やウイルスを、その毒性を弱めたり、なくしたりして体内に入れ、実際にかかった時と同じような免疫をつくるものです。軽くかかった状態になりますが発病はしません。もちろん周囲の人にうつしたりすることはありません。
不活化ワクチンは細菌やウイルスを殺し、その中から免疫をつくるのに必要な成分をとりだしてつくられたものです。1回の接種でできる免疫は弱いので、何回かくりかえすことで強く長く続く免疫をつくっていきます。
生ワクチン:BCG、麻しん風しん混合ワクチン(MRワクチン)、水痘(みずぼうそう)ワクチン、おたふくかぜワクチン、ロタウイルスワクチン
不活化ワクチン:ヒブワクチン、肺炎球菌ワクチン、4種混合ワクチン(ジフテリア・百日咳・破傷風・不活化ポリオ)、B型肝炎ワクチン、 インフルエンザワクチン、日本脳炎ワクチン、子宮頸がん予防ワクチンなど
定期接種と任意接種(予防接種の法律的な区別)
定期接種は国民が受けるよう努めなければならない予防接種で、接種費用はほとんどの市町村で行政が負担しています。
任意接種とは接種をうけるかどうかは本人(保護者)が決める予防接種をいい、接種費用は受ける側が負担します。
ただし、定期接種、任意接種は法制上の区別であり、病気の危険度や、予防接種の重要度とは全く無関係です。
予防接種は副反応が心配
予防接種というと、接種した後、熱が出たり何か具合が悪くなることがあるのではという心配があると思います。これを副反応といいます(薬でおこる場合は副作用といいます)。比較的よくみられる発熱、注射した部位のはれなどの副反応は、免疫反応のあらわれと考えられ、きちんと免疫ができる証拠ともいえます。ただし異常に元気がない、顔色が悪いなどの症状がある場合は念のため受診することをおすすめします。
予防接種スケジュールをつくりましょう
予防接種を始めるまでにあなたの赤ちゃんに最もふさわしいワクチンスケジュールを作ってあげましょう。小児科のお医者さんに相談し、安心して予防接種をうけられるスケジュールを作りましょう。スケジュールを作るうえでのポイントをあげます。
①何種類のワクチンを受けるか決めましょう。
任意接種についてはよく説明をきいて決めましょう。
②同時に何種類の予防接種をするかを決めましょう。
一回に2種類以上のワクチンを接種することを同時接種といいます。同時接種の安全性についてはいろいろな意見がありますが、外国では普通に行われており、また日本でのこれまでのいくつかの調査からは特に問題はないと考えられます。
一方、やはり心配であるとか、一度に4本の注射はかわいそうというお母様たちの気持ちもわかります。しかし先ほどお話したようにできるだけ早く免疫を作る必要があります。よく相談して決めてください。
③2020年9月までは不活化ワクチンの後は1週間、生ワクチンの後は4週間開けないと次のワクチンができないという決まりがありましたが、10月から法律が変わり、生ワクチンどうしは4週間空けなければいけませんがそれ以外は間隔の制限がなくなりました。
それぞれのワクチンについて
今、日本で受けることのできるワクチンは全部で25種類ありますが、これらのワクチンについて説明します。
〈1才までに受けるワクチン〉
①ヒブワクチン
ヒブというのはインフルエンザ菌b型を略した呼び方です。この菌は乳幼児の細菌性髄膜炎や急性喉頭蓋炎といった重症の感染症をおこします。ワクチン接種が始まってから、ヒブによる重症の感染症は大幅に減少してきています。
②肺炎球菌ワクチン
肺炎球菌は髄膜炎、菌血症といった重症の感染症をひきおこします。ヒブと同様に予防接種開始後、肺炎球菌による重症の感染症は減少していますが、一方で、ワクチンにはいっていないタイプの菌による感染が増加してきたことが問題となっています。
【副反応】ヒブワクチンや4種混合ワクチンに比べ、やや発熱率が高いというデータがあります。
(メモ)ヒブ、肺炎球菌はまれな細菌ではありません。幼稚園児くらいの年令の子どもの鼻やのどの粘膜に普通にいる細菌です。赤ちゃんの髄膜炎の原因が兄弟からの感染であったということはめずらしくありません。
③4種混合ワクチン
ジフテリア、百日咳、破傷風、不活化ポリオの4種類の混合ワクチンです。
百日咳は乳児がかかると生命にかかわることがあります。近年、世界中で大人の百日咳が増加しており、それにともなって赤ちゃんの百日咳が増加しています。予防接種はできるだけ早期に(3か月から)開始しましょう。
④BCG
結核に対する予防接種です。平成24年度までは生後6か月までの赤ちゃんが対象でしたが、平成25年4月から、生後12か月までが対象となり、生後5~8か月に接種することが勧められています。赤ちゃんの結核は結核性髄膜炎や粟粒結核といった命にかかわる状態になりやすいので、やはりうけておくことをすすめます。
⑤ロタウイルスワクチン
2020年10月から定期接種になりました。ロタウイルスは嘔吐、下痢、発熱が主症状で、しばしば重症の脱水症をひきおこし、開発途上国では多くの子どもが命をおとしています。日本では脱水症で死亡することはほとんどありませんが、ロタウイルスはしばしば重症の合併症をおこします。脳炎・脳症は比較的多く、熱性けいれんもよくみられます。
まれに心臓、腎臓などに重症の合併症をおこすことがあります。
飲むタイプのワクチンです。2回飲むもの(ロタリックス)と3回飲むもの
(ロタテック)がありますが、効果はほとんど同じです。接種費用が高価ですが、できるだけ接種してあげましょう。
【副反応】まれに腸重積症(腸が腸の中に潜り込んでいく病気)をおこします。
腸重積は生命にかかわることはほとんどありませんが、発見が遅れると手術を必要とすることがあります。
⑥B型肝炎ワクチン
平成28年10月から、平成28年4月1日以降に生まれた子どもだけが定期接種になりましたが、本当はすべての子どもたちにうけてもらいたいワクチンです。
世界では、180か国以上の国で、生まれてきた赤ちゃんすべてがワクチン接種をうけています。近年、外国(主にヨーロッパ)から入ってきた慢性化しやすい、つまり肝臓がんに進みやすいタイプのウイルスが増加しており、肝臓がんの予防ワクチンとして接種がすすめられます。
⑦インフルエンザワクチン
生後6か月になると接種できます。12才以下の子どもは4週間開けて2回接種します。乳児に対するインフルエンザワクチンの効果についてはさまざまな意見がありますが、接種医と相談のうえ接種してください。
⑧日本脳炎ワクチン
標準的接種年令は3才からとなっていますが、3才まで待つ医学的理由は特、にありません。生後6か月になると接種可能で、平成27年に千葉県で乳児の日本脳炎患者がでたことから、生後6か月以降の接種がすすめられるようになってきました。日本での年間患者数は10例前後ですが、アジア全体では年間一万数千人が日本脳炎にかかっており、死亡例や重い後遺症を残す例が多く、予防接種は必要です。私は以前から早期の接種をすすめています。
〈1才以後に受けるワクチン〉
⑨麻しん風しん混合ワクチン(MRワクチン)
1才のお誕生日が来たらできるだけ早く接種しましょう。麻しん(はしか)は今も生命にかかわる病気です。日本もようやくWHO(世界保健機構)から麻しんが排除された国に認定されました。しかし外国(主に東南アジア、中国)からの輸入麻しんがあり油断できません。
風しんは母親が妊娠早期に感染すると生まれてくる赤ちゃんに先天的な奇形をおこすことがあります(先天性風しん症候群)。子どもの予防接種はもちろん大切ですが、お父さん・お母さんも風しんの抗体検査やワクチン接種を検討してください。
⑩おたふくかぜワクチン
おたふくかぜは年齢が高くなるほど重症化する傾向があり、難聴や脳炎などの重い合併症をおこすことがあります。特に難聴はほとんどの場合なおりません。また、おたふくかぜは無菌性髄膜炎を合併しやすく、実際にかかった場合は数十人に1人の割合でおこります。ただしおたふくかぜによる髄膜炎は一般に生命にかかわるようなことはありません。
ワクチンでおきる副反応も年令が高いほどおこりやすく、また重症例が多いというデータがあります。2回接種がすすめられますが、1回目は1才を過ぎたらできるだけ早くすることが望ましいでしょう。日本小児科学会では1才で1回、5~6才で1回の2回接種をすすめています。
【副反応】無菌性髄膜炎は20,000回接種に1回くらいの割合でおこります。年令が高いほどおこりやすく、小・中学生では1,500~2,000回に1回程度とかなり高率におこしますが、1才児ではおそらく10万回に1回以下でないかと想定されています。ですから1回目の接種は1才が望ましいと考えられます。
また2回目接種後の副反応は1回目後の10分の1程度と想定されています。
⑪水痘(みずぼうそう)ワクチン
現在、水痘ワクチンは定期接種になっており、1才から3才までの間に2回接種します。水ぼうそうは予防接種を1回うけた人の約4割が、2回接種した人の約1割がかかってしまいます。水ぼうそうは将来、帯状疱疹をおこす可能性があるので、できれば2回接種が望まれます。
⑫ヒブワクチン追加接種
⑬肺炎球菌ワクチン追加接種
⑭4種混合ワクチン追加接種
⑮日本脳炎ワクチン
〈その他のワクチン〉
①子宮頸がん予防ワクチン
マスコミで副反応問題が報道されるようになって以来、現在このワクチンをうける人は対象者の約1%程度になっています。今もまだ国の検討会は確かな方針を出さず、定期接種でありながら「積極的にすすめられない」ワクチンになったままです。
子宮頸がんは女性の悪性腫瘍の第2位(1位は乳がん)で、年間10,000人以上がかかり、約3,000人の人が死亡しています。さらに近年、20~30才代の若い女性の罹患率、死亡率が増加しています。予防接種をうけると60~70%の発病を防ぐことが出来ます。
予防接種は、うけて得られる利益と、うけることによっておきる損失とを、てんびんにかけて比べることで、良いワクチンかどうかが決まります。
私は接種をすすめていますが、悩んでおられる方はいつでもご相談ください。
②23価肺炎球菌ワクチン
高齢者の定期接種になっている予防接種です。一部の免疫に異常のある子どもも対象となります。
〈主に海外渡航に際してうけるワクチン〉
①狂犬病ワクチン
日本では1957年以降、狂犬病の発生はありませんが、世界的には狂犬病がないとされているのは日本を含めごくわずかです(イギリス、ノルウエー、スコットランド、オーストラリア、ニュージーランド、ハワイなど)。狂犬病には治療薬がなく死亡率もきわめて高い病気です。東南アジア、中国をはじめ、海外転勤などの場合、接種を考慮すべきワクチンです。
②A型肝炎ワクチン
A型肝炎は主に食べ物や飲み水を通して感染します。下水道の整備されていない発展途上国に行かれる場合は必要となります。
③髄膜炎菌ワクチン
髄膜炎菌によっておきる髄膜炎を予防するワクチンです。日本では第2次世界大戦後にはかなりの患者数がありましたが、現在はほとんどが海外からの帰国者です。アフリカ中央部に多く、中東からこの地域に行く場合は接種を考慮してください。米国への留学の場合、接種を要求されることがあります。
④黄熱ワクチン
黄熱病は主に南米、アフリカでみられる病気で、行き先国によっては予防接種を要求されます。ワクチンをうけることができる施設は限られており、兵庫県では神戸検疫所だけです。
⑤他にも、腸チフスワクチン、ダニ媒介脳炎ワクチンなどがあります。
たつの 吉田小児科医院
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